10月4週目の日記

10月16日(月)
食後しばらくして、お風呂に入る前。夫の部屋に遊びに行ったら、仕事かばんの横にスタバの紙袋が置いてあった。袋の口が壁のほうを向いていて、中身が見えない。「え、何これ。スタバに行ったの?」と聞いたら、「開けてごらん」と言う。彼の職場から最寄りのスタバに行くには、自宅とは逆方面にひと駅、電車に乗らなければいけない。普段から、いくら私のためにと言っても、そのためだけに交通費や労力を使いたがらない人である。おみやげといえば、帰り道の途中にあるスーパーで買うアイスのピノである。私を甘やかさない方針で、ピノがハーゲンダッツになるのはごく、ほんとうにごくたまにである。そんな彼が、私のために、逆方向の電車に乗って、スタバで何か買ってきてくれた。ああ、君もこんなところまで来たんだね、と思いながら開けたら、黒いかたまりだった。彼が「ハードディスクケースだよー。その袋にぴったりなの」と言う。そのまま、ひーひっひっひっと笑う。私はむきーっとなる。ふん。どうせそんなことだろうと思ってたもん。期待してないもん。ふんっ。

10月17日(火)
昨夜のスタバロス事件の影響で、栄のスタバに行った。早朝から開いている店舗。朝のピークが過ぎた時間だったらしく、穏やかな雰囲気だった。入り口に「21周年おめでとうございます」と書かれた花束が飾られている。オーダーする前に「おめでとうございます」と言ったら、店員さんの表情がほぐれて、「ありがとうございます」と言われた。店員さんはひっひっひっなんて笑わなくて優しい。そういえば来る途中で、ラシックが18周年だというチラシを見た。栄~久屋大通あたりの街並みは、まだ新しいものなんだな。ラテを飲み終えて、病院に検診へ。少し処置をしてもらった。術後の経過は良好。今日からは激しめの運動をしてもいい。ジムにまた行ける!

10月18日(水)
午前中に区役所、帰りにドラッグストア、昼過ぎから夕方までミーティングという日。歩道の横から、窓の外から、キンモクセイの香りが漂ってきていて、「もういいです」となった。香り自体は嫌いじゃないけれど、その状況から不可避なことが好きじゃない。「キンモクセイを打倒するにはどうすればいいかしらん」と考えて、「カレーはこの香りに勝るぞ」と思い至った。きのこと玉ねぎたっぷりのルーにした。部屋の中はカレーの香り。窓を開けてご近所さんにもお届け。X(旧Twitter)ではわりとおとなしめに発信しているけれども、出してないだけで、私の反骨精神はわりと強めである。大学時代のあだ名は「反逆のカリスマ」。ゼミで、先輩の論の破綻を物怖じせず指摘したのが由来。

10月19日(木)
週末に久しぶりの文学の授業があるので、その予習。絶対、年初より読めるようになっている。単語はもちろん、文法の特定や英文解釈が速くなっている。TOEICのスコアなんかじゃないんだ。誰に試されるでもない、誰かに証明するでもない、自分で感じる、密やかな成長。今日は10年前に結婚式を挙げた日。ささやかなお祝いとして、夜はポテトグラタンを作った。夫が好きそうな赤ワインを添えた。早々に食べ終えた彼が、私を待つあいだにスマホを開く。友人との食事の席だったらあんまり好きな行為じゃないけれど、彼がやるのは大丈夫。彼は写真フォルダを開いて、さっき食べたものの写真を見るだけだから。今日はポテトグラタンの写真を拡大し、「ぼくはこれを食べた」と「ぼくはこれをまた食べたい」という気持ちを合わせた感じでうっとり見入っていた。もうすぐ彼の誕生日。「何を食べたい?」と聞いたら、「これ。大皿で頼みます」と言われた。高級食材とか、凝った料理を言わないところが彼らしい。

10月20日(金)
授業の課題は、25章からなる短編。今日は11~20章を読んだ。夕飯の席で夫に話す。彼は自分で文学作品を読むのは好まないが、私に概要を説明されるのは好き。私は私で、理解したことの整理ができる便利な機会。「こういうことが書いてあったね。それでこうなって、あれが出てきて、なんちゃらかんちゃら」。夫が言う、「つまり・・・・・・まだ何も起こってないってことだね」。私が言う、「そうなんだよ。今のところね。とはいえ、あと5章で何かが起こる気がしないんだよね。いつもそうじゃん、ミルハウザー」。夫は何かが起こる話のほうが好きで、私は起こらなくても大丈夫。

10月21日(土)
来週夫が遠足に行くので、そのおやつを買いに行った。遠足というのは出張のことで、おやつというのは先方にお渡しする手土産である。彼がそう呼んでいる。毎日日記を書いていて、しょっちゅう彼が登場するのを、我ながら「どうなん」と思っているのだけど、彼が最重要登場人物だし、私は友達と遊びに行くタイプじゃないので仕方ない。今日も今日とて彼の話である。休日の午後の名駅は混雑するに決まっているので、事前に私がよさそうなお菓子を下調べしておいた。「これ、どうですかねえ」と提案すると、彼は「ほう。いいねえ」と言う。必要な個数を手にしてお会計に行く。店から出て「さあ、夕食を買いに行こう」と言う顔は、まるで独力で手土産を選んだ人みたいである。彼は遠足当日に、手土産の入った袋を後輩に渡す予定。後輩が手土産を先方に渡す。私は夫を手助けする。夫は後輩に花をもたせる。後輩はきっといつか別の後輩に花をもたせると思う。何かほわほわしたもののバトンリレー。

10月22日(日)
文学の授業の日。家庭教師の先生に会うのは2ヶ月ぶり。題材はミルハウザーの"The Barnum Museum"。先生はわりとおしゃべり好きで、今日の授業は90分のうち最初の30分をトークで使っていた。私は「このままだと私の質問が解消されない」と心配して、隙を狙って質問を始めた。先生が答えてくれたら、いい具合のところで切って次の質問に行く。それを繰り返していたら、先生が、「紺のおもしろいところは、質問のときに、サクサク進むところなんですよ」と言った。私が「先生のお話はおもしろくて、ずっと聞いていたいんですけど、先生は止めないとずっと話してるので意図的にやっているんですよ」と冗談っぽく言ったら爆笑していた。そのあと「時間が延びても大丈夫です、だから気にしないで」と言っていた。今日は結局3時間で終わった。