「最後に質問はありますか?」

「最後に質問はありますか?」
「このあたりでおいしいひつまぶし屋を教えてください」

学生時代、インターンでマスメディア業界の中を見て、「私はモノを作る会社に入りたい」と思った。誰かが作ったモノの情報を扱うよりは、「当社はこれを作っています」というふうに言葉をつかえる人になりたかった。メーカーならどこでもよかったので、視界に入るものの製造元を片っ端から調べ、エントリーした。

時代のせいなのか、自分のせいなのか、私は就活に苦戦した。たくさん落とされて、愛知の会社だけが残った。最終面接で私は笑われた。何を話しても笑われた。バカにはされてなさそうだったが、意味がわからない。ずっと笑われるので、「落ちたな」と思った。最後の質問を促されたとき、ひつまぶしの店を聞いた。「もう愛知には来ないだろう。記念に食べよう」と思ったから。面接官たちはあいかわらず笑っていて、丁寧に教えてくれた。

教えてもらった店で、泣きながらひつまぶしを食べた。手持ちのカードがなくなってしまった。またエントリーからやりなおさないと。あーあ。ここ、あんまりおいしくないじゃん。

お茶漬けのネギを振りかけているときに、人事から電話がかかってきた。内定が出た。初期から一貫して最高評価だったと知らされた。笑われていたのはよい意味だった。

「10分くらい、今後の手続きの話をしていいですか?」と聞かれた。「よくないです、かけ直します」と言って電話を切った。熱い出汁をかけてお茶漬けを食べた。今度は味がした。涙はわさびのせいにした。