気配り探査レーダー

17時頃に仕事を終えて、さてさて夕飯を作りましょうかねと部屋を出たら、エアコンの電源がONになっていた。我が家は2LDKで、私の部屋の横にリビングと台所がある。リビングのエアコンの風が台所にも向かう構造。夕食にはまだ早いから、私が台所に立つのを見越して、夫がスイッチを入れておいてくれたということだ。

メニューはあらかじめポトフだと言っていた。彼がポトフをとても楽しみにして、その表現手段としてエアコンを使ったことはわかった。「ぼくはポトフを作れないけれども、エアコンのスイッチを押して台所を暖かくしておくことはできます」というプレゼンテーションである。

その反面、「君は寒がりなので、部屋が暖かいと嬉しいでしょう。だから事前に暖めておきます」の意図も確実にある。

私のことを好きだと言って大切にしてくれる人が、創造性を発揮して、気配りの新しい視点を開発してくる。事前のエアコンはそのケースだ。重要なのは、もちろんまず片方が何かを生じさせることなのだけど、もう片方が、それを目ざとくキャッチしてこそ完成することを忘れないでいたい。日々の出来事を当たり前だと思わず、細かく観察して記憶し、定点観測データにする。何かの些細なズレや違いは、おのずと浮かび上がる。それは体調不良かもしれないし、疲労かもしれないし、陽気な気分の変化かもしれない。そんな中に、彼の気配りは混ざっている。

私の1年を彩った100のこと(2023)

1. 年明け早々、CafetalkとLinkedinで見つけたアメリカ人の先生にメール。はじめまして。語学学校で担当していらっしゃる文学の授業みたいなことを、私にもやってくれませんか。一般的なニーズとしては圧倒的に語学(TOEIC対策とか)のほうらしく、文学の授業の依頼に喜ばれる。契約。

2. 家庭教師の先生からもらった言葉 "In good times and in bad, in happy times as well as in sad, let's live, laugh, cry, learn, and keep our hearts and minds open."(いいときも悪いときも、嬉しいときも悲しいときも、笑って、泣いて、学んで、心を開いて生きていきましょう)

3. 池澤夏樹個人編集、世界文学全集を全巻揃えた(事実上絶版のものが多かったため)。

4. 歯列矯正(表側・ワイヤー)が本格的に始まる。歯医者の次の日はごはんを食べられないけれど、矯正が進むのが嬉しい。確実に完成に向かっている。

5. LINDBERGの眼鏡を購入。夫と眼鏡の和光の店長がレンズのマニアックな話で盛り上がる。心を開きすぎたのか、店長が私にため口になる。

6. Steven Millhauser "We Others: New and Selected Stories"を、先生と1年かけて少しずつ読む。"Getting Closer"(日本語訳「刻一刻」)とThe Disappearance of Elaine Coleman(「イレーン・コールマンの失踪」)が特に好き。

7. 英検1級でる単、4訂版と5訂版の2冊。同じ題名でも、4訂版のほうが難しい。いつもいっしょにいた。

8. 薬の量と飲むタイミングを試行錯誤する日々。3ヶ月くらい。日中眠いとか、夜眠れないとかで困る。そのうち、ぱちっと決まるところが見つかった

9. トゥベールのクリスタルエッセンス。肌がぴかぴかする。

10. 夫と映画「ある秘密」を観た。私が大好きな小説の映画化されたものが、リバイバル上演されていた。夫はプロットがわかりにくい作品は苦手で、終わってから苦い顔をしていた。

11. 朝の英語はセルフケアに等しい。

12. スンドゥブブーム。調味料はすべて名駅の韓国食材店で買っている。

13. 夫が撮ってくれた私の写真。自然な表情で好き。

14. 士業の人とお役所の手続き。半年以上かかって完了。

15. 「楽しそうに学んでるのが紺のいいところです。読み込んでくるのも、積極的に質問するのも、単語ひとつに子どもみたいに喜ぶのもいいところです。授業してて楽しいですよ」という先生からの言葉。

16. ナショナル・シアター・ライブ「かもめ」。感動している私と、ややぽかんとしている夫に差がある。事前に登場人物とあらすじの授業をしたので、ついてはいけた様子。

17. 名駅でいろいろ買い込んで、三重の榊原温泉へ2泊3日、ひとり旅。1日目は素泊まり。帰りに、その日じゅうに使わなければならないクーポンを8000円分もらった。本も化粧品も間に合ってるなーと思い、夫と相談してすべてデパ地下の干物に。スタッフの女性が「そんなお客さん初めてです」とめちゃくちゃ笑っていた。

18. はてなブログを始めた。noteと違って、CSSをいじれるのがいい。いろいろ試して、私はシェアボタンやはてなスターを表示させないことにした。静かで好き。

19. 誕生日を変更。アラカンパーニュのベリータルト。毎年これがいい。誕生日の魔法 - fisque's log

20. 友人からもらった、小鳥の形の一輪差し。夫が摘んできた野花を飾る。

21. ポモドーロタイマー、Focus To-do。私に合ってる。1日や1ヵ月のレポートを作成してくれるのも好き。

22. 夫とお高めのホテルでホカンス(ホテルでバカンス)。成城石井でサラダやシャンパンを買っておき、ルームサービスでボロネーゼ、ステーキ、ポテトを注文。ルセラフィムのDAY OFFという動画を見て真似したかったやつ。私たちの部屋にプールはなかったし、ベッドもふたつだけだったけど。なじみの街なので、特に夜景に興奮するでもなく、静かに楽しんだ。

23. ホカンスの帰りに、公開初日のコナンと「生きる - living」をはしご。人の数や客層の差。

24. ジャン=ポール・エヴァンのマカロン。病院帰りのごほうび。

25. ルセラフィム、UNFORGIVENのカムバック。Burn the Bridgeがいちばん好き。

26. 外出しているとき、予算1000円くらいでどこかで食べたいなと思っても、人が多かったり、「この値段でこれなら自分で作る」と思ったりで諦めることが多い。結局1000円で寿司屋のランチに入ったり、デパ地下で寿司をテイクアウトしたりする。ということであちこちの寿司を食べ、「寿司は飽きた」と言うようになってしまった(まだ好きだけど)。

27. 生活習慣が崩れると、免疫が落ち、口内炎ができやすくなる。矯正中の口内炎は大災害なので、体を壊さないように注意。

28. スタートレックのクロスワードパズル。この任務を遂行せよ:スタートレックのクロスワードパズル - fisque's log

29. 花。バラは綺麗だけどすぐに咲き乱れて儚い。カーネーションがとても長持ちして部屋に合う。

30. 積読用のタワー型本棚を購入。机に向かっている限り、視界に本が入らないのはいい。

31. ピザパーティー。金曜日の夜のように - fisque's log

32. Passenger, Beautiful Birds。私のSpotifyのランキング1位だった。

33. 夫と観に行った舞台「ART」。大泉洋さんの長台詞に拍手した。

34. 夫と観た映画「ワン・デイ 23年のラブストーリー」。23年間の7/15の定点観測。

35. 結婚記念日。10周年。ひまわりの花束。

36. 新しい結婚指輪を手に入れた(石なしにした)。

37. 10年の区切りとして、「ふたりでごはんを」を執筆。コンテストに応募。いただいた感想が嬉しい。ふたりでごはんを - fisque's log

38. 夫の笑顔。

39. 夫とのハグ。

40. YSLのリップ、154 チェスナットコルセット。松坂屋の店員さんが明るくて素敵だった。

41. 休日、夫がリビングのカーテンを全部開けて、部屋に太陽の光を取り込むこと。

42. ぐちゃぐちゃに泣いていたとき、涙が溜まった眼鏡。夫が丁寧にクリーニングしてくれた眼鏡。

43. 友人とのSkypeでのおしゃべり(3年続いているけれども、まだリアルで会ったことがない)

44. 新しい書見台。理想のダークブラウン。

45. ワイマーケットブルーイング直営のお店で頼む、クラフトビールとポテトフライ。ちびちび飲み食いしながら、夕焼けを見て書きもの。

46. 名鉄百貨店に催事扱いで出店する店のおやき。常設ではないのに、ほぼいる。夫に買って帰ると喜ばれる。

47. 米津玄師の「優しい人」。流しながらアイロンをかけた。

48. ゴディバのショコリキサーダークチョコレートカカオ72%。

49. 第2回「おうちごはん映画祭」の準備(風邪を引いたので開催は延期中)。おうちごはん映画祭 - Home

50. 「日本の古本屋」で買った、渡辺一夫の著作集。増補版、全14巻、付録あり。1冊、鉛筆での書き込みがひどく、お店に連絡した。消しゴムで消せたので、今後の検品漏れ防止のため。そうしたら、お詫びにと、渡辺の直筆入りの別の本を送ってくださった。

51. ルセラフィムのライブ。身軽に楽しんだ。

52. 私の調子が悪い日、私を起こさずにそっと出勤する夫。

53. 久しぶりの美容皮膚科。ルメッカ。

54. Henry Moodie, drunk textをたくさん聴く。"you can't fall asleep waiting for me to reply"(僕からの返信を待って眠れないような関係になれたらいいのに)とあって、夫を思い出し、「あの人は寝るな、私の返信を待ちながら」と思った。

55. YAECAのタックドレス、リバティ柄。ずっと探していたものを古着で買った。

56. ナショナル・シアター・アット・ホームのサブスクリプション開始。1800円。映画館で観られるナショナル・シアター・ライブも結構高いので、毎月1本観るような感覚でいる。National Theatre at Home

57. ピアスホールの開け直し。18歳、上京する前に高校の友だちと開けに行って以来。

58. バレットジャーナルの、オリジナルのフォーマット。

59. etvosのミネラルインナートリートメントベース(ラベンダー)、ミネラルグロウスキンクッション(ナチュラルピンク)。つやつやでみずみずしい。

60. 私のトレーニングを指導してくれる、ジムの店長さんとスタッフさん。

61. 自分なりのレタス巻きに到達。私はレタス巻きを作れるし、食べられるし、ふるまえる - fisque's log

62. 夫が買ってきてくれたピノ。

63. いくらの醤油漬け作り。筋子の皮からぽろぽろ外していくのは楽しい。

64. リスニングの勉強目的で観た「クリミナルマインド」。単語帳に"fan out"(四方に散る)という熟語が載っていて、「どこで使うねんこれ」と思っていたら、ドラマの初期に堂々と出てきた。おかげで絶対に忘れない。

65. Apple pencilの、鉛筆型カバー。

66. 紀伊国屋のプリン。

67. 成城石井のプリン。

68. 成城石井のダージリンティー。

69. イッタラ、ティーマのマグカップ。

70. 家庭教師の先生の使う言葉から丁寧語がなくなって、名前も呼び捨てになったこと。

71. 違国日記、最終巻。絵で示して、言葉にしない手もあっただろうに、最後まで言葉を模索して振り絞るような日記だった。

72. 無事に届いたパトリック・スチュワートの自伝。

73. 夜、電気を消して、寄せ集めた掛布団を背もたれにラルフローレンのブランケットをかぶり、少し斜めにもたれてぼーっと過ごす時間。

74. ジムへの行き帰りの道。何に急かされるわけでもなく、自由に歩く。

75. 英語が年初よりも速く深く読めるようになった実感。

76. リピート要請が止まらないポテトグラタン。

77. どんなときも懸命に看護してくれた看護師さん。

78. 手術以来、久しぶりに料理らしい料理を作った夜。豚の角煮。帰ってきた夫がはしゃぐ。「こういうの食べたかった」「でも言うと負担になると思って」

79. 2時間かけて作ったぶり大根が10分で完食されてしまう、切ない喜び。

80. 3時間かけて作ったキッシュが、なぜか断りもなく当たり前のように6分の4食べられてしまう、切ない喜び。

81. スタバでやってもらったラテアート。

82. ハロウィンのフランケンシュタイン(ナショナル・シアター)

83. 夫の誕生日のバウムクーヘン、キャンドルつき。

84. ペリカンの万年筆で書くモーニングページ。

85. 大学生みたいに、「明日は授業の日だ!」と焦りながら予習する時間。

86. クリームシチューディナー。ストウブの鍋で1品作ってワインを合わせるのにハマった。

87. ミルハウザー、8年ぶりの新刊。

88. 改良を重ねたはらこめし。

89. 夫の名前の刺しゅう入りハンカチをプレゼントした時。「今週も無事で」と祈ってアイロンをかける時。

90. 体を鍛えられているからこその、筋肉痛。

91. 半年間書いてみた日記。

92. 日記よりもやっぱりエッセイを書きたいという気持ち。

93. 高校時代の友人たちに出産祝いを贈ったこと。

94. 単語帳では覚えられなくて、紙に書き出した熟語リスト。

95. 休日、洗濯機を回し終わったら、夫と手分けして干す作業をすること。どんなに少量でも。なんかわちゃわちゃふざけながら。

96. 彼の匂いと牛乳石鹸のボディソープの香りが混ざった、彼の部屋着の白いトレーナー。

97. イギリスから輸入したステッカー。文学の名言が載っている。イギリスでの買いもの - fisque's log

98. 私が大切にしているものをバカにしてくる人への反抗心。

99. 初めてのパウエルズでの買いもの。たくさんくれたホリデーグッズ。混乱のクリスマスプレゼント - fisque's log

100. 夫を大好きな気持ち。夫が私を大切にしてくれる気持ち。

 

The original idea is "100 things that made my year" by Austin Kleon

 



 

1月1日の昼

昼前に起きる。夫はグリルで餅を焼き、私は出汁や具材を作る。合わせて雑煮にする。別の皿に、仕込んでおいた数の子、出来合いの黒豆、かまぼこを載せる。毎年恒例の、元旦の風景だ。

我が家にはテレビがない。静かだ。ひとつひとつに意味をもたせたおせち料理はお互いに好みじゃないので、食べたくないものを食べる気持ちの重さもない。帰省することもない。軽い。

こんなに静かで軽くていいのかしらん、と思うことがある。でもふたりで自由に選んだ結果と考えると、大切にしたくなる。起きる時間、雑煮の具材、味つけ、なんちゃっておせちのラインナップ。

夫に「あけましておめでとう」と言った。彼は「うん」と言った。「今年もよろしくね」と言ったら「うん」と返ってきた。軽すぎる。「言葉を節約しすぎるのはよくないよ」と付け足したけど、雑煮に熱視線を向けていたので諦めた。私たちらしい、1年の始まり。

花束みたいな恋をしていない

人と「好きなものが同じ」ということで仲よくなった経験がほぼない。私と親しくしてくれる人たちは、私と趣味が違う人たちばかりだ。具体的なレベルでは接点がないけれども、抽象的なレベルでは「自分で考えられる」「倫理観が似ている」「何かを作るのが好き」「国内外問わず情報を取りにいける」などの共通点がある。

「花束みたいな恋をした」という映画がある。趣味が合うふたりのラブストーリー。私と夫は花束みたいな恋をしていない。ことごとく好きなものが異なり、ゆえに互いが新鮮で、質問して教えてもらい、思想をシェアしたり議論してきた関係である。

Xにいると、「好きなものが同じ」人たちがつながりやすいんだなあと思う。私は社会人で、資格試験の勉強をしていないので、大学生や資格試験で勉強している勉強アカウントの人たちと少し色が違う。読書アカウントでは日本の本が人気に見える。私は海外の本が好きで、半分くらいは英語で読んでいるので、読書アカウントの主流に乗ってはいないと思う。料理も、わりと朝食と昼食はどうでもよく(名前のつかない料理を雑に作って食べる)、夫と一緒に食べられる夕食をたまにがんばるくらい。料理アカウントを名乗るには忍耐と持続性が足りない。

というわけで、私のアカウントはカテゴライズしにくいものだ。それは自然とそうなったというよりは、初期から、各界隈のカテゴリーからずれてしまうことを把握し、仕方なく運用してきた結果だ。それなのに関わってくださる方がいて、定期的に新鮮な気持ちで驚く。

昔は花束みたいな恋に憧れていたし、ツイートもただ好きなものでつながれるものだと思っていた。でも私はそうじゃなかった。そこに満足を覚える人間じゃなかった。わかりづらさを抱えたままで人と接するのは、いつでもどこかで健やかに怯えているのは、これはこれでいいものなのかもしれない。

コナンの映画

2023年、いちばんおもしろかった映画体験はコナンである。

私が唐突に夫に「観に行こう」と言ったのは、ちょうど公開初日だった。別に初日に行きたかったわけではない。たまたまだった。平日、休みをとってホカンス(ホテルでバカンス)して帰る日、そのまま帰るのがもったいなくて、何か映画を観たかった。

チケットは取れた。名駅のミッドランドスクエアシネマは人でぎゅうぎゅうだった。たくさんの人がコナンを楽しみにしていた。あまりマス向けの映画を観ないし、初日を狙いもしない夫婦なので、あの混雑は新鮮だった。私たちがよく観るような映画は、1日に2回上映されたらいいくらいのものが多い。コナンは混雑する駅の電車のダイヤ並みにスケジュールが詰め込まれていた。ミッドランドスクエアシネマの1と2で建物が離れていて、上映時間によって違う。1だと思ってたら2だった、あるいはその逆の人たちが、よく走っているのを見た。

上映前、お手洗いに行った。すでに観終わった女性がふたり、手を洗いながら豪快にネタバレをしていた。過密なスケジュールだとこんなこともあるのかと思った。

上映中、いなくなろうとする哀ちゃんにうるっとした。エンディングでスピッツが「美しい鰭(ひれ)」と歌っていた。事前に「どうして美しい鮨(すし)なんてタイトルにするんだろう」と首をかしげていたので恥ずかしかった。

上映後、主に子どもと若い人が中心の観客が続々と出口に向かっていく。私たちもタイミングを見計らって出ようとした。ふとうしろの席に目をやると、老夫婦が座っていた。両隣が空いていたので、孫のお供ではなさそうだ。混雑ぐあいから、しばらく座っていそう。老夫婦。コナン。初日。なぜ。夫が「あのふたりが最大の謎だ」と言った。

名鉄百貨店で夕食を買って帰った。鮨にした。

混乱のクリスマスプレゼント

アメリカの本屋パウエルズで、ハードカバーを2冊買った。スティーブン・ミルハウザーの新作。タイトルはDisruptions(破裂、崩壊、混乱、妨害)。注文して3週間くらいで届いた。

私はものが無事に届くかとても心配する性格だ。荷物の追跡番号で状況を数日おきに確認し、「よし、倉庫出発!」「出国まで時間がかかるなあ」「出国ー!」「あとは税関のみっ……」と一喜一憂していた。

そうして届いたものがこちら。



私が買ったのは2冊だけ。残りはホリデーシーズンだからとつけてくれたグッズである。ホリデー専用に制作されたものではなく、通年で売られているもの。3500円ぶんはあり、実は買おうか迷っていたものもあったので嬉しかった。

待ちに待った本が、素敵なギフトと共に届いた。よかった。よろこびが膨らみ、緊張と不安が消えかけたところで本の横を見たらこうだった。



私のぶんも、家庭教師の先生に送るぶんも、ひどい製本だった。ページの端がそろっていない。激しくギザギザしている。角が破れているページもある。私はぬああああああと絶望した。めっちゃ読みにくいやん。高価で、届くまで3週間待った、1年くらい使う予定の本。綺麗なものが来てほしかった。運が悪い。

先生に郵送するとき、ピンクの付箋にメッセージを書いて表紙に貼った。

Thank you always.  I was confused by the rough binding.  Exactly disruptive.  Sorry.
いつもありがとうございます。ひどい製本に困惑しています。タイトルどおり、まさに混乱を伴います。すみません。

授業の日、先生が「届いたよ!ありがとう」と言いながら本を見せてくれた。表紙に付箋が貼られたままだった。

「届いて付箋を読んで、中身を読んで、もう一度付箋を読んだら爆笑したよ。確かにひどい製本なんだけど、これはきっと意図的なデザインだよ。なのに紺が謝ってるのがおもしろくて、2分くらい笑いが止まらなかった」

きちんとしたものを好む私のことも知ったうえだと、余計におもしろかったらしい。先生は付箋をはがし、裏表紙を開いたところに貼りなおした。「元気のない日はここを開くね。素敵なクリスマスプレゼントをありがとう」

読む前から、まんまと混乱した。作品を読むとなったら、もっと混乱するのだろうか。混乱したときは、先生の高笑いを思い出して抜け出せたらいい。

褒められたい

「あなたの作品は本当は1位だったんですが、高校生らしくないということで2位になりました。ごめんなさい」

高校3年の秋、電話がかかってきた。夏に受験勉強そっちのけで書いた英文エッセイ。大きめの全国コンクールの審査員からの連絡だった。

私は言葉、英語の話を書いた。どういうところが好きで、どういうふうに遊び、学んでいるかについて、比喩的なイディオムを散りばめて書いた。電話をかけてきた審査員は大学の教授で、私の書いたことが言語学の分野だと教えてくれた。彼としてはどうしても私の作品を1位にしたかったのに、叶わなかったから、せめてもの励ましにと電話してくれたようだった。

「高校生らしいってなんだろう」と思いながら、後日、受賞作がまとめられた冊子を読んだ。いろんな部門の、1位の作品が掲載されている。英文エッセイの高校生部門では、「留学に行って視野が広がった。この経験を活かして社会にとって有益な人になりたい」といった主旨の文章が1位だった。なるほどなるほど。つまらんな。大人たちが好みそうな、優等生像がそこにあった。こういうのをたくさん送る人がいる中で、無邪気な言葉への愛を爆発させた文章に引きつけられ、推す大人がいても不思議ではなかった。不思議ではなかったけれども、そんな大人は絶対に数が少ないと思った。歴史あるコンクールの威厳ある1位には、私の作品はふさわしくない。

私は今、文章を書いて誰に褒められたいのか。それはあのとき「つまらん」と吐き捨てた自分である。彼女が「いいじゃん」と言う文章を書きたい。そして夫。もし私たちが同級生で、同じクラスの友だちだったら、彼は一緒に「つまらん」と言っていただろう人だ。私が何を大切にしているか知っていて、私がうまく表現できるとよろこぶ。ふたりに褒められたくて、私は書いている。