コナンの映画

2023年、いちばんおもしろかった映画体験はコナンである。

私が唐突に夫に「観に行こう」と言ったのは、ちょうど公開初日だった。別に初日に行きたかったわけではない。たまたまだった。平日、休みをとってホカンス(ホテルでバカンス)して帰る日、そのまま帰るのがもったいなくて、何か映画を観たかった。

チケットは取れた。名駅のミッドランドスクエアシネマは人でぎゅうぎゅうだった。たくさんの人がコナンを楽しみにしていた。あまりマス向けの映画を観ないし、初日を狙いもしない夫婦なので、あの混雑は新鮮だった。私たちがよく観るような映画は、1日に2回上映されたらいいくらいのものが多い。コナンは混雑する駅の電車のダイヤ並みにスケジュールが詰め込まれていた。ミッドランドスクエアシネマの1と2で建物が離れていて、上映時間によって違う。1だと思ってたら2だった、あるいはその逆の人たちが、よく走っているのを見た。

上映前、お手洗いに行った。すでに観終わった女性がふたり、手を洗いながら豪快にネタバレをしていた。過密なスケジュールだとこんなこともあるのかと思った。

上映中、いなくなろうとする哀ちゃんにうるっとした。エンディングでスピッツが「美しい鰭(ひれ)」と歌っていた。事前に「どうして美しい鮨(すし)なんてタイトルにするんだろう」と首をかしげていたので恥ずかしかった。

上映後、主に子どもと若い人が中心の観客が続々と出口に向かっていく。私たちもタイミングを見計らって出ようとした。ふとうしろの席に目をやると、老夫婦が座っていた。両隣が空いていたので、孫のお供ではなさそうだ。混雑ぐあいから、しばらく座っていそう。老夫婦。コナン。初日。なぜ。夫が「あのふたりが最大の謎だ」と言った。

名鉄百貨店で夕食を買って帰った。鮨にした。