台所のクマ

夫がリラックマのパーカーを着ている。胸や背にイラストが印刷されたタイプではなく、リラックマになれるタイプのフリースパーカーだ。フードに目と鼻はない。耳だけがついている。腰の部分には丸くて立体的なしっぽがついている。彼は最近、顔のシミ取りレーザーを受けたので、積極的にフードをかぶる。

台所に、リビングに、クマがいる。電子レンジの前でレンチン待機中のうしろ姿はとてもかわいい。

先日、麻布テーラーに行くことになった。オーダーメイドスーツの店だ。彼のスーツとワイシャツはすべてここで作ってもらっている。出かけるまえ、彼はクマを脱いだ。さわやかなインテリっぽいシャツとセーター、コートに着替えて出かけた。初めて麻布テーラーに行ったとき、粋なスーツを着こなす店員さん相手に恥ずかしがっていた彼はどこへやら。今の彼には、自分のフルセットが麻布テーラー製という自信と、何度もこの店に来た慣れがある。用件は、ズボンの裾のほつれ直し。きりっと、スマートに対応していた。かっこいい。ちなみに彼が肩からかけたショルダーバッグには、リラックマのキーホルダーがこっそりついている。

次の日の昼、台所に行くとクマがいた。ごはんを求めている。「早くちゃんぽんを食べよう」。私は「フードをもう少し深くかぶって」と言い、太陽の射す場所から彼を遠ざけた。正直言って、日焼け止めを塗ればフードをかぶらなくてもいいのである。休日のフードは彼の選択だ。彼はすすんでクマになる。