静かな国の静かな仕事

平日、日中はたいてい黙っている。
体裁を繕う言葉、嘘、機嫌をとるための言葉を使わなくていい。
消化されやすいように噛み砕いた言葉を、よどみなく話さなくていい。
評価されるように話す戦いに加わらなくていい。
黙っていることを叱られないし、許可を受けなくてもいい。

平日、日中はたいてい静かだ。
理不尽な言葉、偉い人たちの言葉、評価が耳に入ってこない。
おしゃれな空気を作るためだけのBGMも聞かなくていい。
電話もかかってこないから、ずっと耳栓をつけていられる。

夫を見送って出迎えるまでのあいだ、耳栓をしたまま、誰とも話さない日がある。
読書と思案と設計が主な私の仕事は、それでも成り立つ。
仕事仲間とのやりとりはテキストメイン。
月に数回の会議ではみんなでたくさん話すけれど、祭みたいな楽しい特別感があって、日常じゃない。

先週から、幽霊になってしまった人の物語を読んでいる。
幽霊になった自分のことを、なんとも言えない存在だと話す。
なんとも言えない形の仕事をしている私は、彼に自分を重ねた。
人に自分を説明するために仕事をしているわけじゃないし、周りの人たちは十分に理解してくれているから、わざわざ外向けのラベルをこしらえなくてもいいんだけど、自分の説明しにくさを煩わしく感じることがある。
説明したくないけど、できたらいいのにと思うことがある。
わかりやすい外向けのラベルを持っていた会社員の頃の願い、「こうなりたい」というのは叶っているので、どういう状況にいても満たされなさは残るんだろう。

今日は雨で、近所の家の工事が休みだ。
耳栓をしていても聞こえる音が、今日は聞こえない。
積ん読はたくさん。仕事もたくさん。
今週も静かにがんばろう。